前置き:次の短い小説は江戸時代、取り潰しにあった藩がその再興を目差す話です註1)。
藩イクオール家、という特別に限られた世界で生きるひとの人生を考えます。
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1 ーーーーそうして、飯田邸に到着した時、さらに眩しい光が
その一行を包んだ。
大門が開けられ、その前には篝火が焚かれている。高張り
提灯もびっしりと掲げられていた。
飯田貝之助は家臣に見守られながら、大門の前に立っていた。
堂々たる体格をしている。
貝之助は馬術に秀でた胃年だと、井川藩の家臣が囁いた。
姫はつかの間、歩みを止め、貝之助の顔をじっと見た註2)。
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2 上の物語は、主人公のかがり姫、備前国井川藩のかがり姫が
親藩の飯田藩の武家屋敷に匿られようとする前の情景です。
備前国の井川藩の領内で農民の一揆が続いて起こり、江戸幕府は
治世の悪さを理由に同藩を改易する。
だが、家臣たちのお家再興の努力が実り、その後に亡くなっていた
藩主の従弟が後継ぎの五歳の子供を補佐する執政の形が取られ、
幕府の了承を受けると、井川藩再興は首尾よく行くかにみえた。
ところが、五歳の新領主とその母親、16歳のかがり姫の一行が
国を発ち、江戸に到着する直前に、井川藩の一行は突然、賊の
襲撃に襲われてしまう。
そして、かがり姫を除く新領主、母親と井川藩のもの、
多くの家来達は殺されてしまうのである。ただ、姫と
その家来の一人は難を逃れるが、行方が解らなくなる。
そこで、井川藩のある筋から秘かに、奉行所に姫の探索と救出の
依頼がだされたのであった。姫は表に出ない奉行所の探索に
よって見つけ出され、親藩の飯田藩の武家屋敷へ送られる。
そこで待つ飯田貝之助は、井川藩の養子になると姫は聴いている。
巨漢ではあるが、耳が悪いらしい。
3 姫は井川家の存続と自分の将来に大きな影響を与えるはずの
貝之助を『じっと見る』のである。
それこそ、過去十六年の記憶を全部引き寄せる仕方で、貝之助が
結婚するに値する男性か、どうかを何秒かの内に見極めるのである。
⭕エピローグ
壮健な男と結婚出来れば、というかがり姫に対して、北町奉行所の主人公をして、
作者は「貝之助の耳になったらいいのでは?」と言わしめる。そして、これを受け
入れるかがり姫の応答を通して、ある明るさの中で物語は終わりを迎える。
註1) 「新しい微笑いの詩」のオリジナルな作品を
かなり変えています。元のブログタイトルは
「新しい現実をもたらすちから」でした。その
最後の章、4だけを掲載。
註2) 宇佐江真理 「我、言挙げす」 文藝春秋 2008年 184頁
2015年に逝去されました。
🗻
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