前置き:故郷の奈良を捨てて、辿り着いた異郷の地。
そこで、ナオミは彼女の夫と二人の息子をなくしてしまいます。
しかも、二人の息子には、それぞれ若い妻が居ました。
旧約聖書 「ルツ記 」を元にした 新しい大人の童話(9) です。
1 ある年、都のある地方全体で飢饉が起こり、その飢饉が二年続くと、
一家の夫は決断し、妻のナオミと二人の子供を連れ、住み慣れた奈良の
地を捨て去り、和歌山の半島先にある漁村に住み着きました。
その異郷の地で家族は寝食を忘れ、朝早くから夜遅くまで働きました。
やがて、大きくなった二人の息子は遠くから働きに来ていた二人の
女性とそれぞれが結婚しました。
2 ところが、一年後に、その地方を二分する内乱が起こり、また打ち続く
戦乱の為に、ナオミの夫と二人の息子たちは相次いで他界してしまったのです。
ナオミは追い詰められてしまいます。
その年のお盆が終わったある日。
ナオミは長男の妻と次男の妻を座らせ、顔を挙げると静かに語りかけ始めました。
家の外から蝉の声がうるさく聞こえます。
「これまで、息子たちの為によく尽くしてくれました。しかし明日からは
あなた方の国に帰り、新しい道を探して下さい。ーーーーもう忘れて、…
ワッ、ハッハッ、ア……」
突然、急に嘲るように笑い出すと、
「何と大きなお墓なのでしょう! わたしは災いです!」
ナオミの眼が光り、潤んだ目付きになりました。
「でも、ここを抜け出せれば、二人共きっと良いものに出逢えます。」
「まだ若いのだから、わたしと居ようなんて思わないで!」
俯いて聴いていた長男の妻と次男の妻ルツの両眼から大粒の
涙が溢れ出し、二人はすすり泣き始めていました。
次の日の朝、長男の妻は山を越えた遠い国へ向け、旅立って行きました。
ナオミは、御守りに夫の唯一の形見を持たせて、見送りました。
ところが、次男の妻ルツは動こうとしません。
3 「 どうしたのですか、ルツ!貴方は? 」
「 御母様、わたしは帰りません ……。 わたしは貴方が好きです、貴方は
小さいことを言いません。…… 帰ることを勧めておられる私の国は、
小さな目先のことをあれこれ言って、世のことが判ったと
錯覚している人々の集まりです。」
「本当に泥舟!お目出度い災いの、 ハッハッハッハッハッハ……、
まだ貴方と一緒に死んだ方がマシです。」
「決して、貴方は災いそのものでは有りません、……確かに
これまで、災いと一緒でしたが。」
ナオミの眼をじっと見つめながら、ルツは両手で彼女の肩を抱き締めました。
ナオミは嗚咽しながらルツの胸に顔をうずめ、泣き続けました。
4 その夜、ナオミは奈良に帰ることを決断しました。ルツは、もちろん
喜んで追いて行きます。
次の日早朝、痩せたろばに乗ったナオミと歩いていくルツが、
なだらかな坂道を登っていく姿が遠くから見えました。
🗻
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